【海岸防災林再生プラン】 ~協働による再生に向けて~
|

|
1 計画策定の目的
|
遠州灘海岸に広がる海岸林は、美しく曲線状に続く白い砂浜とクロマツ林からなる白砂青松の景観が特徴である。また、砂と風による自然の造形美である風紋は、砂丘ならではの味わいを醸し出している。そして、河口を渡る潮騒橋や弁財天川橋などは地域住民に親しまれるとともに、貴重な観光資源としてシンボル的な存在となっている。 クロマツ林を中心に構成された海岸防災林は、ほぼ遠州灘沿岸に広がり、沿岸を連なる砂浜や砂丘の背後に帯状に分布し、津波や高潮などの被害から私たちの暮らしを守り続けてきた。これまでも津波による越波・浸水は、既設の堤防や砂丘前面に留まり、背後地まで到達していない。砂丘と防災林が本来の機能を発揮し、沿岸住民の暮らしの安心・安全を供してきた実例である。 しかし、近年では、砂丘の疲弊による海岸線の浸食や松枯れによる松林の荒廃が顕著となっている。また、これに伴って砂丘や防災林が持つ防災機能が失われつつあり、津波による越波被害を助長することが懸念されている。 こうした状況を踏まえて、平成19年度には海岸の環境保全と防災意識の向上を促すことを目的に「美しい掛川の海岸を守る会」が設立された。同会では、現状の把握、課題の分析などを行うとともに、これを基盤として今後の対応と具体的な施策の実現のための調査を実施してきた。 そして、このたび「市民一体の美しい海岸づくりによる安全・安心な地域おこし提言書」として取り纏め、掛川市長に対して提言がなされた。 この提言は8項目から構成され、項目ごとに26の具体的な施策が示され、中でも、市民や団体、企業などが行政と協働して、海岸と海岸防災林を保全することの必要性が強く訴えられている。 そこで、「守る会」の提言の中でも特に緊急性の高い防災林の保全を具体的に実行するために本計画を策定する。併せて、協働による防災林の再生・保全活動を通じて、自然に親しむ心の醸成と、保安林に対する理解と認識を高めることも目的に位置づけ、今後も自然からの恵みを受けつつ、さらに後生に伝承していくために、砂丘や海岸林といった遠州灘沿岸の特色である貴重な景観を保全していくものである。 その他、防災林を育むことにより地球温暖化防止にも大きく貢献することは言うまでもない。 |
|
|
2 海岸防災林の機能
|
(1) |
防風機能
海岸沿いの自然条件は、内陸部に比べ厳しい条件下にあって、とりわけ冬から春先にかけて吹く季節風は厳しい条件の一つとなっている。 海岸林はこうした強風を緩和し、人々の生活を守る手段として造成してきた歴史を有している。
|
(2) |
飛砂防止機能
海岸沿いは砂丘と耕地が隣接している地帯が多いため、耕地を飛砂による被害から守る飛砂防止策が必要であった。 その防止策の一つが海岸林である。また、堆砂垣(竹簾、粗朶などを用いて飛砂防止を図る方法)も取り入れられているが、これは一時的な対策となっている。 |
(3) | 津波や高潮被害の緩和機能
予想されている東海地震のように規模の大きな地震が発生したときには、津波が誘発され沿岸に来襲する。また、日本は台風の常襲地帯であり、これに伴って高潮が発生することもある。 海岸林は、こうした津波や高潮の波力を軽減し、破壊力を弱める機能を持っている。また、津波時には、波にさらわれた人が樹木にすがりつき、助かった事例もある。
|
(4) |
景観と保養機能
海岸林は青い海と白い砂浜や小鳥などが背景となって、山地と違う独特の美しい風景や空間を生み出し、人々の美的感覚を刺激する一方で、心に安らぎを与える機能を持っている。 また、海辺は健康に良いといわれ、美しい景観と相まって観光・行楽・保養の地として人々が集まる場でもある。かつて大須賀海岸の砂丘では、サンドスキーが盛んであったことでも保養機能を有していることの一端が伺える。 |
|
|
|
3 海岸防災林の概要
|
海岸防災林は、掛川市の南部に位置し、遠州灘に面して約10kmにわたる遠州灘沿岸に広がる。総面積は約193ha、所有形態は県有林約53ha、民有林約128ha、市有林約12haとなっている。 国道150号から海岸に出るには松林を二つ三つ過ぎていくが、最も海岸に近い松林を第1線と呼び、続いて第2線、第3線と呼んでいる。海岸線の砂丘と第1線の松林は、県立御前崎自然公園に指定されているとともに、「日本の白砂青松百選(遠州大砂丘)」にも選定されている。 遠州灘沿岸にはかつて広大な砂丘が広がり、古くから砂地を開拓し、飛砂の害を防ぐため森林造成が行われてきた。遠州灘沿岸一帯は冬から春先にかけて西南西の季節風が強く、風向に直角に砂丘を造成した場合、一冬の間に堆積する砂の高さが高くなりすぎ、飛砂を抑えることが出来なかったことから、風に対してある一定の角度で砂丘を造成し、不要な砂を海へ逃がす方法が開発された。この風の力を利用した「人工斜め砂丘」造成の技術は静岡県独特の技術であり、明治中期頃に確立されたものと言われている。主風に対して、北西から南東へ直線状に堆砂垣を建て、飛砂を伴う強い西風は、堆砂垣にあたり風力が衰え、砂の運搬能力を失った砂は、垣の裏側へ堆積する。砂の堆積が増すと更に堆砂垣を補充し、これを繰り返し海岸へと進み、砂丘の高さが10m程度になると静砂垣を設置し、クロマツの植栽を行っていた。このようにクロマツに被覆された砂丘は、食料増産を図るための農地保全を主な目的として、昭和に入り国が砂地造林計画を樹立し、大規模な海岸林造成が行われた。しかし、昭和10年前後には、遠州灘沿岸を旧陸軍の射場として国に買収され、これまで造成された海岸林は一時荒廃したものの、戦後になり、海岸砂地地帯の整備が進められ、海岸林の面積が徐々に増してきた経緯をたどる。 このように、海岸林は長い年月を経て自然にできた松林ではなく、強風や飛砂から私たちの暮らしを守るためにクロマツを植栽し、守り育てられてきた松林である。昭和43年頃には、防災林としての機能をより強固にするため、保安林指定が行われている。保安林においては、飛砂防備、塩害防備といった公益目的を達成するため、伐採や開発が制限されており、その面積は128haにも及んでいる。 しかし、時を同じくして「松くい虫」による松枯れ被害が顕著となり、防災林としての機能が薄れつつあったため、旧大東町及び旧大須賀町では町単独の防除事業を実施してきた。そして、昭和51年度からは県事業として「薬剤の空中散布」が実施され、翌52年度からは松くい虫被害立木の伐倒と植栽事業が開始され、現在に至っている。
|
|
|
4 旧町別の海岸防災林造成の歴史
|
(1) |
旧 大東町
海岸線一帯の飛砂防止は、地元区の年中行事に数えられている。 砂防組合を組織し、初冬の季節風の強まる前に農家を問わず地区民総出の作業が繰り広げられ、粗朶立て、静砂垣の埋め込みや、春先の松植えにと努力が積み重ねられている。こうした努力により、今の白砂青松が保たれ、海岸線の自然公園が保全されている。 昔年はこの海岸線も流砂の沖積により、年々広められていたが、最近各河川ともにダムが建設され、流砂もなくなり、昔とは反対に浸食の傾向すら見られるようになった。いったん台風などで海が荒れると、河口をはじめ樋管の口は閉鎖され、農作物に冠水被害がでている。 東海大地震による津波も心配されており、防潮堤工事に併せ砂丘の保護も大事な手段である。(「大東町誌」より) |
(2) |
旧 大須賀町
海砂が飛び農作物への被害があったため、その対策として砂丘台地一円に「クロマツ」と「グミ」の幼樹を植えた。国道150号のすぐ南にある松林は、70年程前(明治40年頃)に植えたもので、それが今では大きく生長し、立派に防風及び飛砂防止の役目を果たしている。 この松並木から南、小松の植えられている南の端の砂丘台地一帯には「ソダ」竹で編んだスダレ状のものが縦横に立てられて飛砂止めとなっているが、その枠の中に30cm程度に育ったクロマツ苗が1m平方程度に間断なく植えられている。このスダレ立てと小松苗を植える作業をひっくるめて地元では「ソダ立て」といい、部落毎に何年かに一度は必ずその作業を実施している。これらいくつかの並行する新砂丘地に植樹した砂丘と砂丘との間には次第に耕地が開かれ、農産物が栽培されている。この耕地を俗に「新開」とも「新田」とも呼んでいる。 こうしてできる素畑は地熱も高く、施肥、耕穂とも容易なため、夏作の適地とされ、西瓜、トマトなどが各所に栽培されている。ただ、台風襲来期には高潮の害を被ることがままあったが、近年は松林も育ち防波堤も造られたので被害はまったくなくなった。(「大須賀町誌」より) |
|
|
|
5 海岸防災林の現状と課題
|
(1) | 現状
|
| 遠州灘沿岸は砂丘とクロマツ林が広がる美しい海岸であると同時に、砂丘は波のエネルギーを吸収し、波浪や津波による背後への影響を軽減する機能を有している。また、砂丘の背後に広がる防災林についても、砂丘同様、波の進入を低減する機能を持つとともに、防風機能も有している。このように砂丘と防災林は有機的な組み合わせにより、波浪や津波に対する複合的な防災機能を発揮し、遠州灘沿岸における重要な防災資源となっている。 しかし、化石燃料の普及を契機に松葉の需要が減少し、松林の維持管理が不足がちとなり、次第に松林が荒廃し始め、不要な農作物を廃棄する場所とかした箇所も散見するありさまである。 また、昭和40年代に入ると急速にマツノマダラカミキリにより媒介されるマツノザイセンチュウの被害が拡大し、松林の荒廃に拍車がかかった。かつてはヘリコプターを使用した大規模な薬剤の空中散布が行われてきたが、環境への影響を考慮しつつ、現在は第一線のみと縮小傾向にあるものの、被害木の伐倒破砕処理などの松食い虫防除施策を実施するとともに、植栽や植栽地への下草刈りなどにより松林の再生に取り組んできた。 一方、樹種についてはクロマツの代替としてニセアカシヤやグミなどへの転換を試みてきた。 以上の施策により、マツノザイセンチュウによる被害は沈静化の方向に向かったが、近年に至り被害が猛威を振るい、松が皆伐された防災林も散見される。 その要因としては、松林の維持管理不足は勿論、農作物や人家への配慮から薬剤の空中散布が第一線のみとなったことが挙げられるが、最大の要因は被害に対して対応が追いつかないことである。 このため、市民や団体、企業などが行政と協働して防災林を再生することが求められている。 このような防災林に直接関わる課題の他にも、天竜川からの供給土砂量が減少したことを要因とし、砂浜が後退するといった現象が起きている。この海岸浸食は将来的に砂浜や砂丘の消滅に繋がり兼ねず、防災林にとっても影響を与える大きな問題であるが、自治体単独で解決できる問題ではない。 |
(2) | 課題
|
| 1 樹種について
防災林のクロマツは、飛砂・潮風・強風・痩せ地といった厳しい海岸砂丘の環境に耐えられる樹種として選定されたものと考えられるが、マツノザイセンチュウに対して抵抗性が弱い。このため、抵抗性の強い松(抵抗性クロマツ)も開発されているが、通常の松の価格に比して高額である。しかも、活着率が悪い。 また、抵抗性クロマツは10年程前からの使用であるため、成木になってからの抵抗性についての実績が得られていないなどの課題もある。 ニセアカシヤやグミへの転換も試みているが、ニセアカシヤについては根が浅く強風で倒れやすい。加えて、繁殖力が強く他の樹木の生育を阻害するといった性質を持っているため、防災林としての機能を発揮できる樹木の選定が急務である。 |
| 2 所有形態について
防災林は、県有林、市有林、民有林と所有形態が分かれており、整備にあたってはそれぞれの同意取得が必要となっている。
|
| 3 防災林機能について
松林と直接関わることがなくなった或いは海岸に行く機会がなくなったことに伴い、防災林の重要性の認識が薄れ、管理に対しても必要性が実感できなくなっている。
|
| 4 ボランティア活動について
ボランティア活動によって植樹した樹木の帰属はその土地の所有者であるため、活動に際しては防災林が持つ公益的機能を再生するといった認識に立つ必要がある。 ボランティア活動にも資金が必要であり、この手当が不可欠である。 技術、労働力、資金力からみて作業が限られ、すべての防災林を再生するといった過度の期待は望めない。 |
|
|
|
6 海岸防災林再生への取り組み
|
南部海岸防災林の重要性と再生の必要性に鑑み、次の対策を講じる。
|
|
<ボランティアによる再生活動>
|
| 1 | 協働による松くい虫被害林の早期再生を図るとともに、再生活動を通じて防災林に対する理解と認識を高める。 |
| 2 | ボランティアの募集にあたっては、企業、ボランティア団体に参加を呼び掛けるとともに、広報等で主旨に賛同する個人ボランティアを広く求めることとする。 |
◇背景
| 1 | 行政と市民が協働した対応が求められている。 |
| 2 | 対応が被害に追いつかない。 防災林のクロマツは、飛砂・潮風・強風・痩せ地といった厳しい海岸砂丘の環境に耐えられる樹種として選定されたものと考えられるが、マツノザイセンチュウに対して抵抗性が弱い。このため、抵抗性の強い松(抵抗性クロマツ)も開発されているが、通常の松の価格に比して高額である。しかも、活着率が悪い。 また、抵抗性クロマツは10年程前からの使用であるため、成木になってからの抵抗性についての実績が得られていないなどの課題もある。 ニセアカシヤやグミへの転換も試みているが、ニセアカシヤについては根が浅く強風で倒れやすい。加えて、繁殖力が強く他の樹木の生育を阻害するといった性質を持っているため、防災林としての機能を発揮できる樹木の選定が急務である。 |
|
<活動内容>
|
| 1 | 行政が担う事業と、ボランティアが担う事業を区分けする。 |
| 2 | ボランティアは、主に植栽、※1保育を行う。行政は、防災林保全及び再生に関するあらゆる事業(植栽、保育、薬剤散布、被害木の伐倒駆除)を実施する。 |
| 3 | クロマツ以外の樹種の選定も行う。 |
| 4 | 市民や企業が適切に活動するための「ボランティア・ガイドブック」を作成する。 |
| 5 | 苗木、諸材料、運営費などの活動資金は、市補助金、市民及び企業からの寄付金をもって充てる。 |
| 6 | 併せて、苗木の寄附を募るとともに、※2苗木の里親制度も導入する。 |
◇背景
| 1 | 「静岡県松くい虫被害対策事業推進計画」及び「掛川市松くい虫被害対策自主事業計画」に沿った※3樹種の選定が必要となっている。 |
| 2 | 松くい虫に強い耐性マツもあるが、高価である。防災林機能について松林と直接関わることがなくなった或いは海岸に行く機会がなくなったことに伴い、防災林の重要性の認識が薄れ、管理に対しても必要性が実感できなくなっている。 |
|
<その他>
|
| 1 | 静岡県が実施する※4「しずおか未来の森サポーター制度」に参加する。 |
| 2 | 市は、※5「アダプト・プログラム」を導入する。 |
◇背景
1 市民や企業の社会貢献活動への支援と、活動に対する広報が必要となっている。
|
※用語
|
※1 保育
・ 植栽木が生長しやすいように、下刈り、枝打ち、除伐、つる切りなどを行うこと。
※2 苗木の里親制度
・ ドングリをポットに植えつけて、家庭で苗木に育ててもらい、海岸林に戻す制度。 ウバメガシを予定。
※3 海岸防災林に適した樹種の条件
・ 養分・水分に対する要求が少ないもの。 ・ 飛砂、潮風などに耐えられるもの。 ・ 風に対する抵抗力の強いもの。 ・ 病害虫に強いもの。 ・ 落葉、落枝などによって地力を増進するもの。
※4 しずおか未来の森林サポート制度
・ 企業による社会貢献活動を支援する県の制度 ・ 複数のサポートメニューを企業に紹介、メニューに応じた協定の締結、企業の取り 組みに応じた認定ラベルの付与、整備量に応じたCO2吸収量の認定証の発行
※5 アダプト・プログラム
・ 養子にする、養い親になるといった意味で、道路や公園などの清掃活動、森林の 保全活動などを引き受けることをいう。 ・ アダプトサイン(看板)を設置し、活動の広報に努める。 例)この防災林は、○○の会or○○○会社が保全・再生活動を実施しています。
|
|
|
|
 |
|