昔、小笠山の麓に成徳院という寺がありました。 その頃、この寺の本堂で通夜をすると、どこからともなく、美しい笛の音が聞こえてきます。 「おツ、いい笛の音だな。」と、立って笛の音のする方へ行くと、笛はばったりと止んでしまいます。 「変だな。」と本堂に戻ると、また妙なる音が聞こえてきます。 こうしたことが時々ありました。 その正体をつきとめようとしたが、どうしても分かりません。しかも笛の音は、この寺の外では聞かれませんでした。 それで誰いうとなく「これは、きっと多闇天の天狗だろう。」ということになりました。
多闇天の天狗というのは、それよりずっと前、笛の上手な小太夫という少年が、ある時、山で笛を吹いていると、天狗が出て来て「おい天狗にならぬか。天狗になってその笛の音を聞かせてくれ」と誘われて、遂に多闇天天狗になったと伝えられているものです。 |